世界構想プログラム
N3 Program(Node of Narrative Network)
Thank you for
5th Anniversary Messages
Message 01
第1カーブ・ビジネスからの脱却を目指して
杉本 政也 氏
富士通株式会社
世界構想プログラムに参加させていただいたのは、私がちょうど「“地域”をテーマとした新しいビジネスを創出する」というミッションとなった頃でした。自分なりに検討を重ねた結果として、「新たな需要を創出する事が必要」という点まで導き出したものの、ではどのようにして創出するのか?と悩んでいた時期でした。丁度その時に「第3カーブ・ビジネス」という考え方がある事に触れ、それこそがまさに、これから新しくビジネス創出できる方法だと感じたのです。
富士通という巨大企業の分析を進めると、GDPの推移と富士通の業績は密接な関係がある事が解りました。であれば、当時は(現在もですが)デフレーションなのであって、既存の、あるいは既知の需要に対して「売り込める」ビジネスを探求しても、「パイの奪い合いビジネス」からは脱却できないと推察できるからです。一方の「第3カーブ・ビジネス」は、むしろ「つながり」を複雑化する事によって生じる「新たな需要」に応えるビジネスなのであって、「パイの奪い合いからの脱却」が可能である他、ビジネスの規模も無尽蔵に広がる事が可能なのです。
また、世界構想プログラムの「場」が非常に重要なものとなっています。私は巨大なIT企業に勤務していますが、多様な参加者の取り組みや視点が新たな発見をもたらしますし、参加者同士が自らの考えや思想を高みへと互いに引き上げ合っているように思えます。例えば私はIT企業や大企業といった視点からの考えをお伝えする事ができる一方で、市役所職員である参加者からは行政の視点、町づくりNPO職員である参加者からは町づくりや自然界の生き物の視点に立った考え方を示唆し合う事によって、互いの考え方に幅が広がる実感を持っています。異業種交流会等で社交辞令を交わすのではなく、異なる専門性を持ったメンバー同士が異なる視点で「良い事」を追求し合う場というのは、なかなかないのではないでしょうか。
設樂先生によるナビゲーションも非常に示唆に富んでいます。私が最初に衝撃を受けたのは、「言葉」です。生活者の都合ではなく、生産者の一方的な都合に合わせて生産物を売り込む「第1カーブ・ビジネス」と日々使用している言葉が密接である事を、世界構想プログラムという学びの場で実感しました。普段、何の意識もせずに使っていた「戦略」「囲い込み」「ターゲット」「マネジメント」という言葉自身がむしろ従来型のビジネスの在り方である第1カーブ・ビジネスに結びつくものだと理解した時、古来より伝わる「言霊」という考え方に直接リンクしました。尚、それ以降、なるべく第1カーブ・ビジネスの言葉を使わないことを自分なりに判断して心がけていますが、なかなか難しいですね。時間がかかるかもしれませんが、これは将来に渡って取り組んでいきたいと思っています。
言葉の他にも、未来のビジネスを考える手法について多くのヒントを得ました。例えば「マーケット調査」を称して実施されるアンケートですが、これでは未来を見る事はできません。今ではすんなり理解できますが、実際に世界構想プログラムの場での対話を通して体感的に理解できた一例です。他にも多くの学びやヒントを得ましたが、余りに多いのでこの場では上記の数例程度とします。
世界構想プログラムの場で得た学びを、職業の場で活かせた事も多いです。例えば移住・交流推進機構に出向していた際、わずか10名のチームにも関わらず、上下関係を明確にしめす言葉遣いが見られました。例えば、あるメンバーに対しては「~さん」と呼ぶのに、年下メンバーに対しては「~くん」と呼ぶような場合です。これでは年下メンバーはどんなに素晴らしい考えを持っていても主張できません。従って、「メンバーには上下関係は無いこと」「誰であれ”~さん”で呼ぶこと」という新しいルールを対話によって共有しました。それ以降、非常に円滑なコミュニケーションが実現し、新しい事業も従来以上のペースで創出されたように思います。
一方で、出向から富士通に戻ってみると、特に直近で「第3カーブ・ビジネスの用語を主張しながらむしろ第1カーブ・ビジネスを強化するような動き」も散見されます。私個人の力では大きな組織を変える事ができないかもしれませんが、今後も世界構想プログラムの場で学び続けさせていただきたいのと共に、私のできる範囲で「第1カーブ・ビジネスからの脱却」に尽力していきたいと考えています。